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第49話 榊家の古参使用人①

Author: 花柳響
last update publish date: 2026-06-29 06:00:09
 翌朝、衣装室の窓には薄い曇りが張りついていた。

 昨夜着ていたドレスは、専用のハンガーに戻されている。宮野さんが手配したのだろう。裾には汚れも皺もほとんど残っていなかった。あれだけ会場を歩き、廊下で司と言い合い、未央の視線を背中に浴びたのに、布だけは何もなかったような顔をしている。

 私は靴を箱へ戻しながら、かかとに残った痛みを確かめた。

 昨夜の靴は、足に合っていると思っていた。

 それでも、長く歩けば、かかとは痛んだ。

 扉を軽く叩く音がした。

「朝霧様、お目覚めでしょうか」

 相良さんの声だった。

 榊邸に来てから、彼はいつも同じ調子で話す。丁寧で、低くて、余計な熱がない。怒っているのか、困っているのか、こちらが読み取る余地をほとんど残さない声だった。

「……はい、起きています」

 返事をして扉を開けると、相良さんは廊下にまっすぐ立っていた。銀縁の眼鏡の奥で、視線だけが一瞬、私の足元に落ちる。

「お怪我は」

「靴擦れ程度です」

「医師を呼びますか」

「結構です。そこまで大げさじゃありません」

 相良さんは、廊下へ出かけていた使用人を目だけで止めた。
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